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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)2370号 判決 1950年3月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岸達也上告趣意第一点について。

所論昭和二〇年勅令第五四三号「ボツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件ノ施行ニ関スル件第二項には「前項ノ閣令及省令ニ規定スルコトヲ得ル罰ハ三年以下ノ懲役又は禁錮、五千円以下ノ罰金、科料、拘留及五千円以下ノ過料トス」とあって、この法文を明治二三年法律八四号命令ノ條項違犯ニ関スル罰則ノ件中の「命令ノ條項ニ違犯スル者ハ各其ノ命令ニ規定スル所ニ從ヒ二百円以内ノ罰金若ハ一年以内ノ禁錮(刑法施行法一九條一項但書により懲役又は禁錮に変更)ニ処ス」とある法文と対比し且つ刑法二五六條第二項中の「十年以下ノ懲役及ヒ千円以下ノ罰金ニ処ス」との法文をも参酌すれば、右勅令における制裁のごとく「及」で一括してある場合には「若ハ」または「又ハ」で一括してある場合と異り制裁の併科を妨げない趣旨であると解するを相当とする。そして、從来の立法用語の使用例もそのようになっている。しかのみならず、原審における所論弁護人の陳述は、旧刑訴三四九條にいわゆる法律の適用についての弁護人の独自の意見に過ぎないもので、同三六〇條二項所定の事実上の主張に当るものでないから、原判決が判決の理由において該弁護人の意見に対し何等説示するところがなかったからといって、判決に判断を示さない違法があるとはいえない。論旨はそれ故に採ることができない。

同第二点について。

原判決は、その第一の(二)の事実摘示において、被告人が昭和二二年一月末か二月頃から同年八月下旬頃に至る迄の間約九回に亘り判示診療所においてアトロピン、モルヒネ、一cc入一〇〇本を売渡した行爲を連続一罪と認定したことは所論のとおりである。しかし、右売渡行爲は、第一審判決において被告人が同年七月頃同所で宮田義明に対し同劑一cc入約三〇本を無償で授與した行爲と共に所論のように包括一罪として認定された事実は認めることができない。却って、本件起訴状によれば右宮田義明に対する授與行爲は右売渡行爲と区別して起訴され且つ第一審判決においても右販売行爲と授與行爲とを明確に区別して認定擬律し併合罪の処断をしていることが明らかである。そして、原審において検察官は、公訴事実の陳述として所論のごとく第一審判決記載の通り陳述したのであるから、原審が、右宮田義明に対する授與行爲につき証明が充分でないとして主文において無罪の言渡をしたのは正当であって、原判決には何等所論の違法は存しない。

同第三点、四点について。

しかし、旧麻藥取締規則第四二條は、麻藥を所有又は所持する静的な行爲を取締るものであり、同第二四條は、麻藥を製劑、小分、販売、授与又は使用する動的な行爲を取締るものである。そして後者に当然伴う麻藥の握持行爲は後者に吸収され特に所持として罰すべきものではないが、かかる場合でない前の違反行爲と後の違反行爲とは必ずしも通常手段結果の関係があるものといえないばかりでなく、その取締の目的と法益とを異にするから、各独立した別罪を構成するものと解するを相当とする。されば、麻藥の所持を罰した場合には爾後の処分行爲は別罪を構成しないとの論旨第三点はその理由がなく、また、原判決が判示第一の(一)の所持と同(二)の売渡とを併合罪と認めて刑法四五條、四七條を適用処断したのは正当であって、論旨四点も採ることができない。

同第五点について。

しかし、原判決が麻藥一瓦より注射液一〇〇本を作り得る藥学上の実験則を無視したと認むべき資料は何等存しない。その他所論は結局原判決の量刑を非難するに帰着するから、上告適法の理由として認め難い。

よって、旧刑訴四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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